新聞小説は殆ど読まない方ですが、最近二つの連載に興味をそそられています。
(1)朝日新聞の「夫を亡くして」(門井慶喜)。始まったばかりです。夫の北村透谷自死後の、妻美那子の生涯を辿る作品です。
(2)公明新聞の「ふたりの祖国」(安倍龍太郎)。朝河貫一と徳富蘇峰の二人を絡ませ乍ら日本の歴史を追究せんとするもののようです。
朝日新聞の方は毎日楽しみに読んでいます。
公明新聞の方は今般の選挙中に高校時代の友人から「読め」といって渡された新聞に見附けたもの。毎日読む新聞ではありませんが、本になったら読んでみたいと思わせる硬派の内容でした。
ひと頃、作家などの傍らで生きた女性たちのことが気になり、彼女たちに関する本を探して読んだ時期があります。
北村透谷自死後の妻美那子については『透谷の妻――石阪美那子の生涯』(江差昭子)
国木田独歩と結婚後幾許もなく失踪して、有島武郎の『或る女』で徹底的に悪女のイメージを流布された佐々城信子については『「或る女」の生涯』(阿部光子)
島崎藤村の「新生」のこま子については『島崎こま子の「夜明け前」』(梅本浩志)、『島崎こま子おぼえがき』(森田昭子)
島崎藤村の最初の妻、冬子については『冬の家 島崎藤村夫人・冬子』(森本貞子)
兄正岡子規を最後まで看取った妹律については『兄いもうと』(鳥越碧)
森鷗外の「舞姫」のエリスについては『鷗外の恋 舞姫エリスの真実』『それからのエリス いま明らかになる鷗外「舞姫」の面影』(六草いちか)
こういう女性たちがその後不幸な人生だったら嫌だな、と心配しながら読みましたが、評伝によればこれらの女性たちは見舞われた不幸を乗り越えて立派な晩年を生きたことを知りました。その過程では女性でありながら、というよりも女性であるがゆえの男以上に過酷な状況との力戦奮闘を余儀なくされながら、社会保障制度もなきに等しい戦前の日本でよくぞ生き抜いたと、ただ感動するばかりでした。
共通するのは知性或いは志の高さと逞しい生活力、毀誉褒貶から超然として猫背にならず、昂然と頭を挙げ視線を高みに放っている凛とした姿勢。
同情されて当然の境遇でなお「同情されるようになったらお終いね」と言っているかのような姿に、既に高齢者の私にはなお教えられるところ大です。
彼女たちに比べると、透谷も独歩も藤村も武郎もその文学的営為とは別に人間的に潔くない面があるように感じました。ただ、上記の本は著者の視点で捉えたものですから実像とはズレがあるとは思いますが、彼女たちの人生が概観出来たことは迚も良かったと思っています。